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「熟成」についての鮨武の気持ち①

「寝かせる」と「熟成」は同じことなのか?

最近よく聞く「熟成」。そもそも熟成ってなに?

熟成という言葉が一人歩きしていて、お客様と話していてもちょいちょい話が食い違うのでここで整理しておきましょう。

よく
「魚は釣りたては味がないから2,3日寝かす」

とか

「酢にした小肌や鯖は翌日以降が旨いので一旦冷蔵庫にしまう。」と言います。

これは鮨屋に限らず魚を扱う料理人なら昔から誰でもやってきたことです。

刺身を食べたときに感じる「甘さ」はこの場合「旨み」とほぼ同義語で、魚の筋肉中のイノシン酸を我々の舌が感じ取っているものです。

このイノシン酸は魚の筋肉にあるアデノシン三リン酸が、魚の死後、変化することで徐々に増えるものなので、「死んだ直後は味がない」ということになるわけです。

この、「イノシン酸が十分に増えるまで待つ」ことを我々は「寝かせる」と呼んでいます。

先述のように昔からやってきたことですから、最近流行りだした「熟成」とは別のもののように感じます。

業界として「熟成」という言葉の定義も決まっていない状態なのであまりはっきり言うのもアレですが、気持ちが悪いわけです、個人的に。

「3日間熟成させた平目です。」とか「2日熟成させた小肌」とか聞くと背中がムズムズしてきます。

「そういうのはな、『寝かせる』ってんだ。昨日や今日流行りだした言葉と一緒にすんじゃねぇ」ってことです。

生の魚と違い、小肌や鯖が翌日以降が旨いのは、魚の中心部まで酢がゆっくりと回って、生臭い部分がなくなることによるものです。魚の表面に染み込んだ酢が魚全体に広がるので、酢の味は薄められるので酸っぱさがとれ(これを角が取れるといいます)、その分中心部の生の身に酢が染み込むので全体がまろやかになるわけです。

これだって「1日寝かせる」からなせることなんです。

「寝かせる」と「熟成」は違う。

翻って熟成は、本来の牛肉を例にとると

  1. 室温1℃、湿度90%の部屋で、肉に冷風を当てながら2か月ほど乾燥させる
  2. 表面のダメになった部分を切り捨てて、内部の肉を使う

です。

「時として表面にはカビが生え、身はドロドロの真っ黒。でも内部は旨みが増して美味しくなる。」です。

「寝かせる」のとは大分様子が違います。

だから私は「5日間熟成させたクエ」なんて言葉は使いません。

「〆てから5日目のクエです」とか

「〆てから5日間氷に埋めておいたクエです」となる。

「同じことじゃねーか」って?違います。言葉は大切です。

言葉とは自分の思いが形になったものです。

私はそこら辺を軽くは思っていません。

日本の魚は〆たてだって十分に旨い

「釣りたては味がない」と言いましたが、それは比較対象が「その同じ魚の旨みが増した状態」と比べて、ということです。

釣りたての魚が不味いということではありません。(ここが、牧草食べて野生に近い状態で育ったアメリカ牛(特有のクセがある)と違うところです。)

勘違いの方も多いのではっきりと書いておきます。

「日本の魚は死んだ直後だって凄く旨い」

です。

だから私は旨みが出て来るまで使わずに寝かすことはしません。

〆たての魚には確かにピーク時の旨みはまだ出てないけど、生命力に満ちた身の張り(歯応え)があります。これは〆たての魚でしか味わえないもの。

そのために我々職人が、刺身を通常より薄く、大きく切って舌に触る面を大きくして味を感じやすくしたり、醤油やポン酢の量を控えることで魚の味を感じやすくしたりするわけです。

口の中ではじける食感に、生命の力強さや、高鮮度で届けてくれる漁師や流通業の人を思い、「ありがたいな」と思って食べる。

そして時間が経ってその身がゆるみ、変わって甘みが立ち上がるタイミングであれば、その味をまた楽しむ。

これが本来のあるべき姿だと私は思っていますし、そこをきっちりと仕上げるのが私の仕事だと思っています。

でもやっぱりというか、ついにというか、「熟成」をやる店が増えてるみたいですね。

そのことは次の記事で書きます。

 

 

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