極上の甘さ、積丹のうに

鮨武に極上のウニを直送してくれる北海道積丹半島の漁師、柏崎祐毅さんご夫妻を訪ねました。
積丹町水産技術指導員の水鳥純雄さんにご紹介いただき、極上のウニを送っていただけることになりました。柏原さんのウニの甘さはまさに別格。上質なウニはどれも優しい甘さが魅力ですが、柏原さんのウニはその甘さが「ガツン!」とくる感じ。

水鳥さんから、柏崎さんの人柄や仕事への情熱を聞いていた私は「ぜひ会いたい」と思い、今年の漁港巡りツーリングで訪問のお願いをしたのでした。
当初はウニ漁の様子や、殻から出して商品に仕上げる様子を見学したいと思っていましたが、日程上訪問できる日は7月17日しかなく、その日は地域のお祭りなので漁には出ないとのこと。

残念ではありましたが、やはりご本人に会って直接お話だけでも伺いたいと、新潟発の新日本海フェリーで北海道を目指しました。さて、どんなお話が聞けるのか…。心はもう北の大地に飛んでいます。
フェリーでは日本海に沈む夕陽が旅立ちを歓迎してくれました。

毎年各地の漁港や漁師を訪ねてバイクで回るこの企画。
今回も旅の相棒はこのブログにもたびたび登場してくれている佐々木くん。
彼は鮨武の常連さんで外資系のサラリーマン、釣り好き、漁師好き、港好き、鮨好き、バイク好きで、おまけにかなりのタフガイ。そして何と言っても私とは40年以上の付き合いです。

「港視察のツーリングに一緒に行きたい」と言ってくれる友人は他にも何人かいるのですが、多いときは一日に900㎞走り、連日4:00起きで港を巡るツーリングに平気な顔で同行してくれる人は彼以外に中々いないです。

(一日の移動を終えてハイボールとお鮨でくつろぐ佐々木くん、通称「キンタ」。羅臼の鮨店にて。)

小樽に上陸、積丹半島へ

(小樽から積丹町余別漁港までは60㎞ほど。ちょうどいい「肩慣らし」です)

7月17日の早朝5時に小樽港に上陸した私たちは、さっそく積丹半島を目指してバイクを走らせました。約束よりも少し早く港に到着。柏崎さんが手がけているもう一つのお仕事「積丹クルージング」の受付の前でソワソワして待っていました。

(柏崎さんの「積丹クルーズ」の集合場所 )

漁のない日の早朝に迷惑でないかと心配していると
「なーも。漁師は朝が早いから大丈夫ですよ」
言っていただき心が少し軽くなりました。

そして案内いただいたテーブルには、ウニ尽くしの朝ごはん!
全てお上さんの手作り!
炊き立てのウニご飯の香り。ご自分で摘んでいるという「磯海苔」とウニ入りお味噌汁。この辺りの名産という手作りの焼きのり…。旅のクライマックスが最初に来てしまいました。

「こんなホンモノの漁師ご飯、なかなか出会えるものじゃない💦」と佐々木くんも泣いています。
本当にそう、何と言う贅沢。。

(炊き立てのウニご飯にウニの味噌汁、手作りのほっけの焼き物にウニグラタン。都会にいる我々が夢に見るような献立が並びました。ありがとうございました。)

思えば今日もしウニ漁に出ていたらこんなゆったりした時間は持てなかったでしょう。忘れることができない経験をさせていただきました。
ありがとうございました。

朝食をいただいた後は柏崎さんが自分でリフォームしたというゲストルームに移動してさらにお話を聞くことができました。漁師さんてなんでもできるんですね。。

(柏崎さん手作り!のゲストルームでお話を聞く佐々木くんと鮨武)

ゲストルームではウニだけでなく、そして積丹だけでなく、幅広い魚や漁の仕方、現状について話が止まりませんでした。

東京にいては分からないこと、現役の漁師ならではのリアルな話などを沢山知ることができました。
言葉の端々には漁師としての誇りと、ここ積丹の海への深い愛情が滲み出ているようでした。そして何よりも自分が作る商品への責任感。

パッケージに「柏原祐毅」と個人の名前が書かれて流通するご夫婦の塩水ウニは、一切の妥協を許さない強いプライドの塊なのだと知ることができました。

『高いものなんだもね、当たり前です』
と話す照れ笑いの柔らかさと
『出なけりゃならない時は多少時化ても出ます。そんときゃまぁ命がけっすね(笑)』
と冗談のようにさらりと口にする言葉の恐ろしさに、プロとしての気迫を見た思いがしました。

それにしても何故彼が捕るウニはここまで甘いのか。鮨武で彼のウニを食べた多くのお客様が「今までのウニのなかでベスト」と言ってくれました。その秘密を聞いたところ
「んーよぐわがんね」
「上からみて旨そうなのを捕るのさ」
と。。
後ろにひっくり返った佐々木くんを起こしながら更に伺うと
「ここいらのウニは食べてる昆布が美味いんだよね。美味い昆布を食べてるウニを捕るのさ」
「あどは正直に、一生懸命つくるのさ」
とニコニコ笑顔。
はい、もうその言葉だけで十分です。もうそこは理屈じゃない、柏崎さんご夫婦の仕事にかけるプライドこそが、あの甘さの正体なのだとわかった気がしました。

30代にしてすでに数杯の漁船を持ち、地域でも一目置かれる存在の柏原さんは、代々漁師の家系に生まれ、積丹の海とともに生きてきました。彼を支える働き者で美人の奥様との息もぴったり。
「お前しかいないってダイヤの指輪持って迎えに来てくれたんですよ」と話す笑顔が素敵すぎでした。

そのあとは捕ってきたウニを製品にする作業場を見学させていただいたり、大型船の操舵室やウニを捕る磯船に実際に触れてみたりと貴重な体験をいくつもさせていただきました。船の大きさやトン数、エンジンの馬力、奥様(女将さん、とお呼びするべきか)も柏崎さんに負けず本当に知識豊富なのは驚きました。もうさすがのご夫婦。

鮨武には、柏崎さんが捕ったウニの中から「これぞ」という特に質の良いものだけを厳選して送ってくださっています。そして何より、ウニは“鮮度が命”。
柏崎さんのウニは、市場を経由せず直送されるため、通常よりも一日早く店に届きます。この一日が本当に重要なのだとも教えていただきました。

温厚で明るく腕の立つ柏崎さんと、できればもう少し長く、できれば一杯やりながら話したいと思いましたが、今日はお祭りの仕事が忙しく、我々もこれから旭川まで行かなければなりません。

お二人と積丹の海に心から感謝を伝えて港を後にしました。

(上陸一日目:走行距離370㎞)