鮨屋で聞こえてきた会話

北海道の鮨屋で近くのお客さまのこんな会話が聞こえてきました。

「やっぱりボタンエビだよね、北海道まで来て甘エビじゃね~。」

ちょっとダンボ化して聞いてみたら、どうやら『以前に行ったお店で甘エビが出てきてがっかりした』と言うような内容でした。

私も長いことこの仕事をしていて同じようなお客様の会話を耳にしたことが何度かあります。皆さん総じて『ボタンエビ(や車海老)は格上だから高級店で出てくる。甘エビを扱うのは格下の安いお店』ということでした。

甘エビは「格下」なのか?

確かに、ボタンエビはその大ぶりな身や濃厚な甘さ、贅沢な食感は存在感ありますね。しかし、だからと言って「甘エビは安くて格下」という言葉を耳にするたび、鮨職人として胸がチクリとします。

市場での甘エビの立ち位置

確かに、同じ鮮度、同じ身の充実度、であればボタンエビの値段が甘エビを下回ることは殆どありません。ボタンエビの方が高いのです。

ボタンエビってやつは(国産の生は)高いです。値のいいときなんざ1本1000円とか普通にします。でもね、甘エビだって安すかないんですよ。

「甘エビ=安っぽい」と思ってる人、多いんですが全然そんなことないんです。

スーパーやチェーンの居酒屋で出てくる甘エビは、ほとんどが海外から来た冷凍もの。解凍すると水っぽくなって、甘さも抜けちゃって、時には苦みまで出る。そもそもが甘エビですらない可能性もありますな。これはとっても安い。でも美味しくない。これを食べて『やっぱり甘えびは大したことないな』と思われるのは仕方ないのかもしれません。

質のいい甘えびはボタンエビに勝るとも劣らない

本当に鮮度のいい甘えびは別物なんですよ。北海道や北陸から急送される、朝の時点ではまだ生きてるような甘エビの、シャキっとした歯ごたえ、甘み、旨味の濃さ。管理の甘いボタンエビなんざ相手になりません。(ボタンエビにも海外からの輸入冷凍ものがちゃんとあるんだけど、やっぱり美味しくないです。)

ただ、そういう甘エビは結局仕入れ値が高いのでチェーン系の居酒屋や安さで勝負してる回転ずしチェーンでは扱えない。だから食べたことがある人が少なくて、余計に「ボタンエビ=高級、甘エビ=格下」なんてイメージが定着してしまった。

鮨武でも、身が充実していて鮮度抜群の甘エビがあれば普通に使います。美味しいもの。でも、それは決して安い仕入れじゃないんですよ。なのに「甘エビなんて安物を出してる」なんてもし(あの時の鮨屋のお客さんみたに)思われてるとしたら、それはちょっと悲しいなぁってことなんですよと。