山崎倉さんの船で鮪の一本釣り漁へ
2016年9月13日 大間・気仙沼ツーリング二日目
5時に起床、シャワーを浴びてすぐにチェックアウトの準備。さっさと荷物をまとめて1階の食堂へ。この辺の行動は二人とも本当に早いです。二人とも特に酒に強いわけではないけど、二日酔いで寝坊するなんてことはまずありません。
海峡荘の朝食は大間鮪の刺身に殻つきのウニも!
「あるときだけなんですけどね」と宿の女将さんが明るく教えてくれます。寝不足二日酔いも物ともせず二人ともバリバリ食べます。フノリのお味噌汁が旨くてもう。思えばこの宿には5時間くらいしかいなかったですね。
ありがとうございました、また来ます。
黙々と出船の準備、そして津軽海峡へ
港に着くと山崎さんが黙々と出船の準備をしていました。
「おはようございます。昨日はありがとうございました。宜しくおねがいします。」
「あぁ」
もう別人、昨日のことなど無かったかのよう。と言うより、いつもの山崎さんに戻ったのでしょう。
出港は7時、鮪の漁場は大間の港から20分足らず。この近さが鮪の鮮度を保証してくれます。漁師は沖に出ると自分の経験や勘、それに様々な電子機器を駆使して鮪の群れを追います。群れをとらえると魚の進行方向を読み、その先に生餌を投入して釣りあげるのです。
鮪の漁期は6か月、この間60本釣ればそれはもう「名人」とされ、この数字を山崎さんは毎年クリアしてきています。180日で60本、平均して3日に1本。1日に3本とることもあるそうなので、実は釣れずに港に戻る日の方が多いんですね。
港を出ると船はあっという間にあらゆる方向に揺れだします。上下、左右、前後、普段乗る釣り船と違い、波の来る方向が決まっていないのでバランスをとるのが非常に難しいです。つかまっていなければとても立っていられません。
そんな中を山崎さんは何も感じないようにスルスルと船の中を移動します。恐るべき平衡感覚。
途中何度か操舵室から出てくるけど、ほとんどの時間は操船しながらずっと海面を見ていて、その背中の厳しさに我々は話しかけることができませんでした。
鮪は現れず 帰港します
当たりを待つこと5時間、ついにマグロは獲れず、一旦我々を港に戻してくれました。今日中に気仙沼に入らなければならない我々を気遣ってのことです。
港にもどったとき山崎さんが
「まぁ、こんなもんです・・・。」
と自嘲気味に。まるでマグロの顔が見られなかったことを詫びているような口ぶりでした。とんでもないです。山崎さんの仕事ぶりを見せていただいて感謝の気持ちでいっぱいです。本当にありがとうございました。
神ではなく、ひたすら努力する人
大間観光センターの横山さんに「山崎さんを紹介する」と言われた時、私の中では山崎さんという漁師のイメージがありました。
それは
『子供のころからここ大間の海で魚を追ってきた鮪漁の申し子。天性の勘で人が捕れない時でも自分だけは大物を釣り上げ、だれもが羨む技術で抜群の稼ぎを得る天才漁師』というものでした。
でも昨夜から酒を飲み、話を聞き、船に乗せていただいて私が見たのは
『ただ実直にこの道にかけてきた謙虚で一本気な男』の姿でした。
秘密のポイント、秘密の仕掛け、How toなんちゃら…。そんな軽いものではなく、ただただ真面目に自分の道を究めようと走り続けてきた真の職人。
昨日飲みながら私たちに話してくれた言葉を噛みしめてみます。
「自分の仕事に一生懸命取り組んで、それでも成果が出ないこともあるし、もしかしたら出ることもある。それはあたしの仕事もあなた達の仕事もみんないっしょ。おんなじなのさ。」
「みんなは鮪の大きさを言うけどさ、あたし達にとっては大きくても小さくでも一本は一本なのさ。一本5000円しかならない鮪でもさ、その一本を取れるか取れないかをずっと勉強し続けていくんだ。自分んで考えて工夫して試してみて。そうやって努力してきて今があんのさ。」
どんなことでもネットで調べられる時代。
私も職人と呼ばれる仕事をしています。神と呼ばれたベテラン漁師が歩んできた道のりを思うとき、その口からあふれ出た言葉が、私の深い部分に楔のように突き刺さるのを感じました。
ありがとうございました。
ありがとうございました。
山崎倉さん、そしてご紹介くださった横山さん、ありがとうございました。
さらば大間、気仙沼に向けて出発です
バイクがおいてあるところまで港からは2~3㎞の距離です。
「車で送る」と言っていただいたのですが、あと少しだけ大間を感じたかったので歩くことにしました。この日の大間は風に揺れる草木の他に動くものは何も無いように感じました。
人の気配が感じられない家や、朽ちて使われなくなった建物が雑草に囲まれて道の片側に続き、反対側にはこれも朽ちた小船や漁師小屋が雑草に囲まれて放置されています。
その向こうにはさっきまで揺れに耐えていた津軽海峡の海が白波をたててゆっくりと流れています。
それにしても人がいない。高級鮪で有名なこの地は、もっと立派な家が建ち、人々の活気に満ちているとばかり思っていました。
ひっそりとしたこの空気感。これが大間という土地なのでしょう、出来ればもう少し浸っていたかったですね。だって着いたらすぐに飲み会、起きてすぐ船、下りたら出発。確かに慌ただしかった。
途中にあったプレハブを改造した食堂でお刺身定食を食べてバイクに戻り、さあいよいよ大間にお別れです。
時間は13:00、気仙沼までは約400㎞、半分が下道なので恐らく8時間以上かかるでしょう。折しも出発と同時に冷たい雨が降り始めました。